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ロタウィルス胃腸炎

~なぜ私達がロタウィルスワクチンをお勧めするのか~

 「白色便性下痢症」、「冬季乳幼児下痢症」、「仮性コレラ」。毎年冬から春にかけて乳幼児に流行する胃腸炎をかつてこう呼んでいました。コレラのように白い下痢を反復し、ひどい脱水症状となり入院を必要とすることも稀ではなかったためです。この胃腸炎の原因が、「ロタウィルス」と判明したのが約30年前。その後様々な特徴が分かってきました。


ロタウィルスの特徴

  1. ロタウィルス胃腸炎は生後6ケ月から2歳までに初めて罹患することが多く、5歳までにはほとんどの子どもがかかってしまいます。また、何度も繰り返し感染しますが、最初の感染が最も重症となりやすくなっています。
  2. 日本では5歳未満の子で罹患した2人に1人が胃腸炎症状で外来受診し、15~40人に1人は脱水症などで入院が必要になってしまいます。
  3. 日本では10万人に1人の死亡率ですが、途上国など医療環境の十分でない土地では1万人に4.5人の死亡率と決して低くありません。
  4. 託児所や保育園で集団感染を引き起こしやすく、流行します。
  5. 反復性痙攣(はんぷくせいけいれん)や脳炎など重症合併症を起こすことがあります。

 ロタウィルス感染時の痙攣は稀ではなく、熱もないのに突然ひきつけが起こり、長引いたり、おさまってもすぐにまたひきつけを繰り返しやすく、救急搬送が必要なこともあります。ロタウィルスによる脳炎は日本ではウィルス性脳炎としては3番目に多く、年間約44例の発症があります。しかも、15%が死亡、25%は後遺症を残します。これはインフルエンザ脳炎より予後がよくありません。胃腸炎症状がひどくなりやすい事とともにこのような重篤な合併症が起こりうることもロタウィルス腸炎では気をつけていなければならないことです。

 特徴の①にもあるように、ロタウィルスに初めて感染する乳幼児が最も重症となりやすくなっています。そこで、乳児早期に弱毒化させたワクチン株ウィルスで免疫をつけて、その後感染しても重症化しないようにさせる目的でワクチンが開発されました。

 現在ロタウィルスワクチンには、ヒトロタウィルスG1P(8)遺伝子型由来の1価ワクチン(ロタリックス:2回接種が必要)と、ウシロタウィルスを用い、ヒトに多い5つの遺伝子型に組み替えた5価のワクチン(ロタテック:3回接種が必要)の2種類があります。どちらのワクチンもロタウィルス腸炎を80%予防し、95%以上重症化予防効果があり、効果の差は認めていません。日本ではまだ任意接種のワクチンですが、それでもワクチンが導入されて以来多くの方が接種されることで患者数は激減し、保育園においてはワクチン未接種の年長児においても減少し間接的な効果も認められています。

 このワクチンで注意が必要なのは、接種後に腸重積症の起こる可能性があることです。腸重積症は、腸と腸が重なってはまり込んで腸閉塞(ちょうへいそく)を起こし、機嫌が悪い、嘔吐、腹痛、血便などがひどくなり、緊急に治療をする必要がある病気です。通常、胃腸風邪やウィルス感染などをきっかけに発症しますが、ロタウィルスワクチン接種後にも10万接種に数人発症するリスクがあることが分かっています。2種類のワクチンで腸重積の発症頻度に差はなく、どちらも特に1回目の接種のあと7日以内に発生する場合があることが報告されています。一般に、腸重積は乳児期後期にその発生頻度が高くなるため、ワクチンを安全に接種して頂くために、ワクチンの初回接種を15周未満(生後14週6日)までに済ませていただくことが推奨されています。

 残念ながら現在は任意接種で接種料金が高いのがネックです。自治体が接種費用を助成する地域では90%以上の接種率となっています。そのような地域では、ロタウィルス胃腸炎の患者数や入院数が減少し、ワクチンの効果が短期間で認められています。また多くの人たちがワクチンを接種することにより、病気の流行自体が見られなくなっており、子どもたちを地域ぐるみで守るためにも有効な手段と考えられます。このあたりでは、名古屋市、豊明市、瀬戸市、尾張旭市などが助成を行っており、長久手市にも助成を検討していただくように呼びかけています。