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子宮頸がん

ワクチンはこのまま接種せずにいて本当によいでしょうか

子宮頸がんは、現在日本で年間約1万人の女性が罹患し、年間約2,900人が亡くなる病気です。死亡される方のうち1割は40歳未満で、20〜40歳代の若い世代で増えています。また、妊娠中にがんが見つかり妊娠継続をあきらめている方も数多くいらっしゃいます。

 子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウィルス(HPV)というウィルス感染が原因となります。HPVの主な感染経路は性的接触です。海外のデータでは、性交渉経験のある女性の50~80%はHPVに一度は感染したことがあるといわれています。感染しても90%以上の方は無症状でウィルスは2年以内に排出されますが、ウィルスが排除されずに持続的に感染し続けてしまう場合、“前がん病変”が形成され、その後数年かかって子宮頸がんが発生します。子宮頸がん検診では、この、“前がん病変”をがんになる前に発見することを目的とし、負担の軽い治療を選択することを可能にするものです。しかし、検診では“前がん病変”の50〜70%しか陽性判定できず、病変を陰性としか判断できない場合もあります。

 HPVワクチンは、HPVの感染を予防して“前がん状態”そのものを発生させないように開発されたものです。現在使用されているワクチンは、頸がん全体の50〜70%の原因とされる2種類のHPV感染を予防できると考えられています。ワクチンがまだ新しいため、実際にがんの発生を抑えたという集積したデータはまだなく検証には時間が必要ですが、早期からこのワクチンを取り入れたオーストラリア、イギリス、アメリカなどからは、実際にHPV感染自体や前がん状態の発生を予防できていると報告されています。また最近、フィンランドからはHPVに関連する浸潤がんはワクチン接種者には全く発生していないという実証の報告も出ています。

 日本では、2013年4月より小6から高1の女子を対象とするHPVワクチンの定期接種を開始しました。しかし、接種後に痛みなど体調不良を訴える人がいることが報告され、同年6月に積極的な勧奨が中止されて以来、事実上定期接種は停止しています。厚労省や専門家は、この5年間ワクチン後の体調不良の実態とその因果関係について多方面から検証してきました。しかし、ワクチン接種との因果関係を示唆する医学的、科学的な研究結果は現在のところ出ていません。接種後の体調不良の実態調査では、慢性疼痛や運動障害の報告は176人(ワクチンとの因果関係が不明のものも含む)、10万接種に、2件の頻度であると報告されました。名古屋で行なわれた7万人以上の調査にて、HPVワクチンを接種したあと副作用といわれる体調不良の症状が出現した方は、接種しなかったけれど同様の症状を呈したことのある同年代の方とその頻度に差はなかったと報告されています。

 一方でこの5年間に通常通りHPVワクチンの接種がされていたなら、子宮頸がんの発症を1万3,000人~2万人、死亡は3,600~5,600人回避できたと推計されています。「薬害」として訴えを起こしている方がいる一方で、世界保健機構(WTO)や日本の関連学会は、HPVワクチンの定期接種の積極的奨励の中止は、若い女性ががんを予防できるチャンスを失わせているとして積極的奨励の再開を求めています。

 接種後の体調不良に関して、原因究明に関する研究は今後も続けられています。また相談できる窓口や専門医療機関の整備が行われてきています。しかし、これからはワクチンで防げるがんを、日本はこのまま放置しておいてもよいのかということを考えていかなければならない時期に来ているように感じます。もちろんご本人とご家族でワクチンの効果と副反応をよく考えて接種していただきたいのですが、その判断には信頼性の高い科学的根拠や調査結果を参考にしていただきたいですし、ご相談いただければと思います。